2014年10月12日日曜日

UX Book Club - Observing the User Experience

「Observing the User Experience」読書会 facebookイベントページ

今回で3回目を迎えたUXAnalytics Lab主催の読書会に参加してきました。この読書会には、様々なバックグラウンドを持ち、違う環境で働いている方々が、UXのことを理解して勉強したいという共通した動機で集まっています。読書会は主催の若狹さんが洋書を選び、パート分けしてそれぞれの担当を決めて、内容の要約や感じたこと、関係する事例の紹介などを持ち寄って発表するという形です。日本語の本を読むより、英語の本を読むことでより前後文脈を考えたり悩んだりすることで理解が深まるという効果があります。

今回はみなさんの発表資料のクオリティがとても高く、発表も聞いて分かりやすくて非常に勉強になりました。元々の本の分量が膨大だったため、発表だけでかなり時間がかかってしまい、みんなが現場で体験したことや独自の意見などをぶつかり合う時間が足りなかったことは少し残念でしたが、UX Practitionerとして押さえておくべきものが網羅されていると言っても過言ではない本書の内容を一通り全て学ぶことができたことで、強い達成感を得ることができました。

発表内容を章の順番に沿って整理してみました。

PART I
Why Research Is Good and How It Fits into Product Development

Chapter 1 Introduction (若狹さん)
LEGOから得られるレッスンが六つある。コアオーディエンスを良く知ること、メインユーザー層を超えたユーザーニーズを知ること、リサーチで得たものを建設的に変換すること、ユーザーリサーチから全体的な結果に繋げることなど。コアオーディエンスである子供たちに向けた商品に注力したのはもちろん、一緒に遊ぶ大人にもアピールする商品を創り出し、成長によって難易度を変えて達成感を強くしていく仕組みも導入するなど、ユーザーリサーチによって具体的な効果を出すことができた。

Chapter 2 Do a Usability Test Now! (若狹さん)
Nano-usability Test(一人にプロダクト・サービスを使わせて観察、分析)など、今すぐはじめられるユーザビリティテストに取り組むべき。本田宗一郎の「やってみもせんで、なにがわかる」と通じるところがあると感じた。

Chapter 3 Balancing Needs through Iterative Development (若狹さん)
Iterativeな開発とWaterfallな開発で、それぞれ開発のフェーズによって向いている手法と向いてない手法がある。例えば、何を作るかを検討する段階ではインタビューやサーベイが有効、一通り動くものを作ってからはユーザビリティテストやサイト解析が有効。開発のフェーズや環境によってFlexibleに適用する手法を選ぶべき。

PART II
User Experience Research Techniques

Chapter 4 Research Planning (平野さん)
どんな小さなプロジェクトであっても、計画が必要。ゴールを決めてから、それにあわせてスケジュールやバジェットを決める。ゴールを決めるときは、社内社外を含む様々な立場の人にとってのゴールをまず確認し、そのゴールにImportance(重要度)やSeverity(深刻度)を基準にして点数をつけて優先順位を明確にしていく。

Chapter 5 Competitive Research (平野さん)
競合調査はタイミングを見計らってやるよりは、常に続けることが望ましい。特にリデザインする前に、課題解決のために競合を調査分析するのはとても効果的である。Tier1競合(ガチンコでかぶっている場合)とTier2競合(同じカテゴリーだけど、Tier1ほどかぶってない場合)、ニッチ競合(一部だけがかぶっている場合)という分け方をすると比較しやすい。

Chapter 6 Universal Tools: Recruiting and Interviewing (岩﨑さん)
リクルーティング(被験者募集)やインタビューはどちらも重要。どちらかを間違えるとその後のプロセスが全て狂ってしまう。特にスクリーニングが上手く機能してなくて、不適切なユーザーが被験者として選ばれてしまうことは大変深刻な事態。リクルーティング仕組みを大々的に見直さないといけない。ユーザー像をテンプレート化しておくと色々と利点がある。インタビューをするときは最初広い質問をして、徐々に具体的な質問に変えたあと、最後振り返りまとめあげると良い。モデレートするときは中立的なポジションを守ることが重要。

Chapter 7 Focus Groups (岩﨑さん)
元々マーケティング技法。座談会と訳しても良いかも。数人希望のグループディスカッションを数回実施して、プロダクト・サービスに対する感想や使われ方などを収集する方法。ターゲットを選定し、スクリプトを作成する。準備から音声データ起こしまで、やることがたくさんあるので、できるだけ人に任せられることは任せてしまう。例えば、モデレーションに営業職の人を活用したり、データ起こしを社外に頼むと良い。スクリーニングのプロセスをしっかり作っておいて、事前に関係者の同意を得ることが重要。

岩﨑さん発表資料 (Chapter 6, 7)

Chapter 8 More Than Words: Object-Based Techniques (ソヨン)
人々の言葉で表せない感情、希望などを引き出すための方法として写真を用いる方法(Photo Elicitation)とコラージュ、マッピングがある。これらの手法はゴールがまだ調整可能である開発初期に、ユーザーのニーズを明らかにするために実施すると効果的。出す情報が決まっていて、出し方に迷っているときはカードソーティングが有効。人々が情報をどう組織して分類するかのロジックを把握することができる。

Chapter 9 Field Visits: Learning from Observation (ソヨン)
フィールドリサーチは、ユーザーがプロダクト・サービスを最も自然な形で使っている場所に行って観察すること。プロダクト・サービスが人々の生活にどのように溶け込んでいるかを知ることができる。

私の発表資料 (Chapter 8, 9)


Chapter 10 Diary Studies (大谷さん)
ユーザーに体験の内容を記録してもらうことによって、日常生活の中でプロダクトがどのように使われているのかを知ることができる。紙に書いてもらう方法とオンラインで投稿してもらう方法があり、両方メリットやデメリットがある。最近はRET手法と呼ばれるTwitter投稿とメール作成をあわせた報告の仕組みも使われている。この方法はユーザーのバイアス(Potential bias/Self-reporting bias)がかかりやすく、それをどう取り除くかが重要になる。また、収集したデータを解析する際に膨大な工数がかかるので注意すること。

Chapter 11 Usability Tests (大谷さん)
タスクやシナリオを設計する時に、ユーザーが普段からやりそうな状況を設定することが大事。モデレーションのテクニックが必要で、ふんわりした回答を掘り下げて生々しい話・個人的な体験にまで持っていくことが重要。

Chapter 12 Surveys (梅澤さん)
サーベイに良いタイミングは、良い質問が思いついたとき。質問は具体的に設定すること。様々なバイアスに注意すること。例えば、クリスマスシーズンにショッピングについての設問をしても、普段とは違う回答が返ってきたり(時間バイアス)、会社員が働いてる時間に質問を投げても答えが返ってこなかったり(持続バイアス)、などなど。結果を分析して、定性調査で補完する。

Chapter 13 Global and Cross-Cultural Research (梅澤さん)
国境を超えてグローバルなリサーチをしたり、違う文化背景を持つ集団に対してのリサーチを行うこともある。謝礼をその国や文化圏にあわせたものにするなど、細かいところに色々気を配らないといけない。本格的な調査をはじめる前に、IDEOのツールキットを使ってエクササイズすると良い。

梅澤さん資料 (Chapter 12, 13)

Chapter 14 Others’ Hard Work: Published Information and Consultants (河合さん)
全てのリサーチをゼロから行う必要はないので、公開されている資料を使ったり、コンサルタントを雇うことも良い方法。netratingsやcomscoreなどが良いサービスを提供している。情報メディア白書を参考することも良し。

Chapter 15 Analyzing Qualitative Data (河合さん)
たくさん集まった定性的データを整理して、パターンを見つけること。方法はたくさんあるけど、目的がしっかりしてないとどの方法を用いれば良いかわからない。目的がはっきりしてないと、UXマップをとりあえず作ったけど活用されないといったようなことが起きる。3Mのポストイットをデジタル化してくれるアプリを使うとデータの整理が楽。

Chapter 16 Automatically Gathered Information: Usage Data and Customer Feedback (中垣さん)
Usage DataやCustomer Feedbackといった自動で集まるデータをどう活用するかはまさにUXリサーチャーの仕事である。例えばA/Bテストを行って、その結果をもって良いデザインを採用することで、CVが上がって、UXが向上されるといったことが起きる。ただ、細かいデータばかりを見るのではなくて、全体への影響なども考えてこれらのデータを活用すべき。Customer Feedbackもあくまでも顧客一人ひとりの意見なので、参考までに活用した方が良い。

PART III
Communicating Results

CHAPTER 17 Research into Action: Representing Insights as Deliverables (中垣さん)
ユーザーリサーチの成果は会社あるいはクライアントにしっかり伝えてこそ意味がある。アウトプットとしてペルソナ、シナリオ、タスク分析ダイアグラム、エクスペリエンス・モデルといったものを提供するとステークホルダーも理解しやすいはず。残念なUXデザイナーの成果はパッと見なんだかいい感じかもしれないが、ステークホルダーを説得できる力を持っていなかったりする。

Chapter 18 Report, Presentation, and Workshops (吉田さん)
成果を報告したり、プレゼンテーションしたり、ワークショップを行うことで会社やクライアントにフィードバックすることもUXデザイナーの大切な仕事である。例えば報告書を作成したり、プレゼンテーションをするときには、要約を持ってきて、それをサポートする内容を添え、最後に証拠やデータを加えると効果的。

Chapter 19 Creating a User-Centered Corporate Culture (若狹さん)
ユーザーリサーチの成果をフィードバックすることで、企業をユーザー中心でものごとを考えるような文化に変えていく。スモールチームではじめてスケールアップしていき、ステークホルダーを巻き込み、リサーチの結果を明白にして、自分(UXデザイナー)がもたらした効果を測定可能な値で提示する。また、ユーザビリティの価格を策定して、自分の貢献度をわかりやすくアピールすることで、ユーザーリサーチの重要性を理解してくれる環境を作り上げること。

Observing the User Experience: A Practitioner's Guide to User Research (Interactive Technologies)

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