2014年12月10日水曜日

ソシオメディア UX戦略フォーラム 2014 winter

ソシオメディア UX戦略フォーラム 2014 winterに参加してきました。今回のイベントは『ユーザーエクスペリエンスの測定ーUXメトリクスの理論と実践』の発売記念も兼ねていて、著者のビル・アルバートさんが本の内容だとか、ベントリー大学でUXセンターの実行ディレクターとして様々な会社の依頼を受けてきた経験談などを二日間集中的に話してくれました。

ベントリー大学では16週にかけてUXメトリクスについて講義をしているとのことでしたが、今回は二日しかなく、詳しい話が聞けなかったことは残念なので、詳細は書籍を読んでみて突き詰めて勉強をしようと思いました。UXメトリクスとはなにか?なぜUX向上において重要なのか?組織に導入するためにはどうすれば良いか?といった話がメインで、ケーススタディの中では今すぐはじめようと思えるような実績的な内容もたくさん含まれていました。

二日間、六つのセッションの内容をまとめてみました。


UXメトリクス入門 – ユーザーエクスペリエンスの測定とは?

UXメトリクス(測定の基準)を持つことによって、問題に着目したり、回避したり、問題の大きさをはかったり、競合との差別化をはかったり、改善の記録をつけたり、マネジメントを説得することができる。例えば、タスクの成功率、タスク完了時間、離脱、満足度の度合い、使いやすさの度合いのような測定に関わるもの(従属変数)と、ユーザーの年齢、性別、プロダクトのデザイン、使用頻度のような操作に関わるもの(独立変数)があって、それらを組み合わせて使うことによって、知りたいことに対する答えを得ることができる。自分にあったUXメトリクスを設計するためには、何を知りたいのか、得た情報をどうするつもりなのかを明確しておくことが重要で、UXメトリクスは決まった形がある訳ではなく、自分で組み立てるレゴのようなものである。

UXメトリクスの現状 – 欧米のUXメトリクスの最新動向

UXメトリクスに取り組んだ理由は、90年代のUXのメソッドはもっとゆるかったし、声が大きい人の意見が通りがちだったので、スタンダードな手法を確立することによって、UXをより尊敬される分野にしたかったから。また、実際多くのケースを見て聞いて、色んなところの独自のメトリクスの工夫を見てインスパイアされた。2008年に出版したこの本は今まで売れ行きが落ちたことがなく、ステディーに売れ続けている。みんなが測定可能な基準を必要としている証拠だと思う。

トレンドとしては、まずUXメトリクスに対する専門性を持つ人がまずいないのに、企業としてはUXで差別化をはかろうとするため、人が足りない状況。ベントリー大学の生徒たちもいくつもの内定をもらっている。また、Emotional engagement(感情的なつながり)を調べようとする企業も増えている。どれだけ愛着を持ってくれて、家族や友達に紹介しようとするかどうかなど。中国に行ったときに、UXに対する情熱にびっくりした。今までなかった文化なので、早く学ぼうとしてみんな熱心。

UXメトリクス・ケーススタディ – UXメトリクスをどのように活用するか?

9つのケーススタディの紹介。ユーザビリティベンチマーク、ベースライン評価、情報アーキテクチャ、ブランド認知、ローカライゼーション、マイクロインタラクション、エラーと学習可能性、比較評価、アイトラッキングと広告の事例。どれも知りたいことを明確にして、それを知るための指標を設定し、測定結果をもって次のアクションにつなげることができた例。ベンチマークの例では、3つの競合製品を含めた4つの製品をメジャーの上に「使いやすい順で並べてください」というタスクを出して、その距離を指標として使用した。こうすることでユーザーの心理的な満足度を測定可能な定量データにすることができた。

UXメトリクスの実践 – ユーザーエクスペリエンス測定のための秘訣

クエスチョンの定義→計画→データ収集→分析→結果の提示のプロセスをまわす。リサーチクエスチョンは、何を知りたいのか?どうしてこれを知る必要があるのか?といった、リサーチの目的をはっきりとしたもの。それが決まったら、質問に答えられる手法を選ぶ。例えば、ユーザーがウェブサイトでなぜ悪戦苦闘するのかを知るためには、定性調査が有効である。しかし、どのような色がいいか?といったものは定量調査が向いている。それから、モデレーションありなしを選ぶ。モデレーションありの方がたくさんの洞察が得られるが、なしの方がサンプルサイズが大きく、データ収集が早い。計画が終わったらデータを収集し、分析を行う。分析時はアウトライナーを特定して除く、最小値を除く、平均値ではなく中央値をレポートするなどの工夫をする。最後はデータを統合し、「UXスコア」を算出すると比較の際に役立つ。

UX戦略としてのUXメトリクス – UX活動を推進するためのドライバー

日本でもUXが脚光を浴びている。UXが求められる背景として、「製品からサービスへのシフト」「社会インフラのスマート化」「競争化・グローバル化における経営戦略の要請」といったものがある。効果的なUX戦略を分解すると、リーダーシップ、メソッド、メトリクス、マネジメントになる。組織の中でUXを普及させるためのマネジメント、工程にあったUXメソッドの実施、組織の大きさや目的にあったリーダーシップとともに、メトリクスが重要になる。「測れないものは管理できない」というドラッカーの言葉のように、測ることは組織化活動の要である。UXメトリクスをUX戦略推進のドライバーとして、ユーザー視点のKPI、マーケティング視点KPI、業務プロセス視点KPIなどを設定して、達成のためにPDCAを回すべきである。

UXメトリクスの応用 – UXメトリクスの組織への適用方法

UXの分野は急成長中で、人が足りない。現在UXの仕事をしている人たちの背景はデザイナーから歴史を専攻した人まで、多様であり教育レベルも高い。組織としては、UXのことを意識していないところもあれば、根付いているところもあって、それを「UX成熟度モデル」で表すこともできる。UXを推進するためには、組織的なサポートが必要で、定性・定量的手法の経験のあるUXチームを作ることが重要。UXメトリクスを実施するためには、小さくスタートして拡大していくやり方をオススメする。まずはゴールやKPI、配役と責任、予算といったプロジェクトの定義を行い、計画にあう手法を選んで実施する。発見をしたいのか、デザインの評価(形成的評価)をしたいのか、検証(総合的評価)をしたいのかによって、手法は違ってくる。手法を選んでデータを収集したら、それを分析して、マネジメントに説明するところまでが一つのサイクル。


「UXメトリクス」というと、なにかと専門知識が必要だったりお金がかかったり時間がかかりそうというイメージが強かったけど、UXを測定するという考え方は特に大げさなことではなく、「仮説を立てる→検証する→改善する」というユーザー中心のデザインプロセスにおいて必ず必要になるものであることを再確認しました。ログなどお金や時間をかけなくても自然と集まる大量のデータをいかに分析して次に活かすかを明確にするためには、UXメトリクスを設定して活用することが不可欠と感じました。

私の日頃の業務で、例えばデザインの細かなところでチームの意見がわかれた場合、「恐らくこうだろう」という意見ベースでしか話が進まなくなるので、そのときに「誰に見られて」「どのように使ってもらいたいのか」を明確にして、そのような人たちを対象に小規模でもいいのでアンケートを実施して、判断の根拠となる定量データを確保するというアプローチは今すぐにでも使えるものだと思いました。

また、聞いているときはとても概要的な内容だと感じていたのですが、こうやってブログにしてまとめていると、概要だけでもかなり盛りだくさんだなぁと思えてきたのとともに、これらの内容は本当に概要にすぎないので、実践するためにはより深く勉強をしないといけないなと思いました。UXをただ勘で進めるのではなく、きちっとしたロジックで根拠を残しながら進めるための、とても有益な話を聞かせていただくことができて、スピーカーのビルさんと篠原さん、主催のソシオメディアさま、またこのイベントを紹介してくださった方に感謝します。

2014年12月9日火曜日

EuroIA 2014 で思ったこと色々


これは、【UX Tokyo Advent Calendar】のために書いたものです。(12/9)

ヨーロッパ最大のIA/UXカンファレンス、EuroIA 2014に参加してきました。今年は開催10周年ということで、1回目の開催地だったベルギーのブリュッセルで、9月25日から27日までの三日間にかけて行われました。形式としては午前中はワークショップ、午後はプレゼン、合間にみんなで食べたり飲んだりして交流するという形でした。私が参加した三つのワークショップの中、二つのワークショップの内容についてはその詳細を会社のブログに寄稿していますので、今日は「飲んだり食べたり」の時間に見たこと思ったこと感じたことを共有してみようと思います。



1. ベルギーは地理的にフランスやドイツ、オランダに接していて、話す言葉もバラバラです。私は会場から徒歩3分のところに泊まっていて、主な観光地も徒歩10分以内に密集していてあまり遠くへ行くことがなかったのですが、それでもあの小さい地域の中でフランス語やドイツ語、オランダ語や英語が飛び交っていて非常に興味深かったです。中には4カ国語を流暢に話す人も多く、相手がフランス語は話せないけどドイツ語はいけるということがわかった瞬間にドイツ語モードに変えて話すなどしていてすごいと思いました。

EuroIAの会場には求人の紙が貼られていましたが、スキルの一つとして「ドイツ語とフランス語、オランダ語がビジネスレベル以上」という条件があったり。ベルギーの人たちとスタートアップ文化について話していると、彼らにとってローカライズはとてもやっかいだけどクリアしないといけない大きい課題らしいです。日本は日本語がわかる人がほとんどなので、日本語に対応しておけば1億以上の人に理解してもらえることが保証されますが、ヨーロッパの場合、例えばフランス語で対応しても母数が全然少ないのでビジネスとして成り立たず、サービスの成長のためには必ず他言語対応をしないといけないそうです。このようなヨーロッパ独特の事情が聞けて良かったです。



2. 東京のことを「なんだか未来都市なイメージ」と言っていた人が多くて面白かったです。彼らの頭の中にはモノレールが走っているとか、スカイツリーが光っているとか、タッチして自動販売機から飲み物を買うといったものが東京のイメージをなしているのかもしれません。ヨーロッパは大都市でも古い建物がずっと昔から残っていて、そのような環境で暮らしていると、「東京」はSF映画に出てきそうな未来都市のように思えるのかもしれません。何かに対するイメージというものは相対的なものなんだなーということをあらかじめ考える良いきっかけになりました。


この絵はなにごとも相対的なんだなぁと感じたもう一つの例です。これは現地で仲良くなった人が描いてくれた、EuroIAで出会った人たちの似顔絵です。左上に登場しているのが私で、空き時間にひたすらテレビを見ていることや、猫を飼っていることは自分で言ったので、「TV GIRL」というあだなをつけられたり、まわりを猫を描かれたりしたのは単に面白いと思っただけですが、白人から見たアジア人の顔って、やっぱりああなっちゃうんだな、というのが軽い衝撃だったです。アジア人同士で似顔絵を書くと、絶対あんな顔にはならないはずで、私自身も自分の目があんなに細くて、鼻があんなに低いとは思ったことがないのです(笑)


3. 10年間ずっと参加しているという人も多かったので、「昔この会はどうだった?」という質問をたくさんしてみました。共通したものとして、「昔はもっとどうすればいいかわからず悩んでいた」「世間に理解してもらえなくて集団でいじけていた」といったものが多かったです。また、ウェブの時代はよりヒューリスティック調査のようなチェックリストベースの判断基準を作ろうとしていた人が多かったけど、モバイルの発展によってコンテキストを重要視する考え方がメインになってきたという話もあってなるほどと思いました。

「世間に理解してもらえなかった」の部分において、やっぱりAppleの貢献は著しいもので、iPhoneやiPadの普及によって一般の人も「ユーザビリティ」がどんなものか理解しはじめたり、UXの導入が多くの会社で本格的にはじまるきっかけがAppleのビジネス的な大成功であることはほぼ全員同意していました。

「どうすればいいかわからず悩んでいた」の声を代弁したものとして、EuroIAの最後のスピーチ、情報アーキテクトのAbby Covertさんによる「Six things we still suck and four lessons to teach the kids(我々がまだヘタクソである六つのこと、また子供たちへの四つの教訓)」がそのような観点を分かりやすくまとめてくれていました。スピーチでは、いかに長い歴史の中で人々が情報を扱ったり分類したりすることに戸惑ってきたのか、またいかに今でもみんなが「情報」に困惑していて悩んだり苦労したりしているのかを500年の情報の歴史、またここ十数年の世の中の変化の話を交えて話してくれました。


4. 私が東京で仲良くしている人たちはほぼ映画好きだったり音楽好きだったりしてカルチャーについての話題が枯れることがないのですが、現地で出会った人々とも「タランティーノ映画の中で一番好きな作品は?」と言った、非常に東京で普段話している話題そのままだったのが印象的でした。

最近UXデザイナーの才能というか素質的なものってなんだろう?というのをよく一人で考えていて、UXデザイナーたちはアーティストではなく、科学者でもなく、典型的なビジネスマンではないけど、これらの素養をいい具合に備えていないといけなくて、「いい具合」ってなんだというのを見つけるためにはまた絶妙なバランス感覚が必要かなと思っています。そのバランス感覚も含めて、後天的に学習したものではなく、何か生まれ持ったもので良いUXデザイナーに必要なものはきっとあるというのが私の意見です。

例えば「共感能力」です。共感する力はユーザーの立場でものごとを考える際に非常に役立つもので、自分ではなく、他の人たちがどう思って、どう行動するかをシミュレーションする能力はまさにこの「共感」から生まれてくるのだと思います。共感能力が強い人たちはすぐ登場人物だとかストーリーに共感しちゃうので、人並み以上にフィクションに入り込んで楽しむ傾向があるのではないかというのが私の仮説です。日本だけではなく、ヨーロッパでもUXをやっている人たちが情熱的に映画や小説の話をしているのを見て、自分の仮説がまたひとつ確かなものであると思いニヤリとしました。


5. 三日間にわたる熱く楽しいカンファレンスは最後のマイクセッションにて、「People & Process for UX Process」というワークショップを担当していたPeter Boersmaさんの突然のプロポーズとBirgit Geibergerさんとの婚約でめでたく幕を閉じました。私は最前列で「Oh my god 産地直送の生プロポーズや!!」と興奮しながら、EuroIAは人に出会って親しくなり結婚できちゃうほど親密なコミュニティなんだなぁと思っていました。UX Tokyoもこのようにあたたかく、やさしく、人間味溢れるコミュニティとしていてくれて、東京の大きいUXのイベントでも、プロポーズする勇者が現れることを楽しみに待っています。